イリボーの用量はなぜ男女で異なるのか
今回の事例は男女で用量に差のあるイリボーです。
添付文書にしっかり記載されているため既知の方も多いとは思いますが、そもそもなぜ男女に差があるのでしょうか。
今回の事例
2019年 No.11 事例3
【事例の内容】
患者は下痢や軟便の症状が続いていたため、近隣の医療機関を受診した。イリボー錠5μg 1錠が処方されたが、患者は女性で初回投与であることから、1日の投与量について疑義照会を行った。その結果、イリボー錠2.5μg 1錠へ変更になった。
【背景・要因】女性にイリボー錠を投与する際は、1日2.5μgから開始し、効果が不十分な場合に5μgに増量することを把握していたため、疑義照会を行うことができた。
【薬局が考えた改善策】イリボー錠が処方された際は、初回の服用であるかを確認する必要がある。
●イリボー錠2.5μg/5μgは、性別により投与量が異なる薬剤である。
●添付文書やインタビューフォームなどから薬剤の特性を理解し、処方監査を行うことが重要である。イリボー錠2.5μg/5μgの添付文書(一部抜粋)
【用法・用量】
男性における下痢型過敏性腸症候群
通常、成人男性にはラモセトロン塩酸塩として5μgを1日1回経口投与する。なお、症状により適宜増減するが、1日最高投与量は10μgまでとする。
女性における下痢型過敏性腸症候群
通常、成人女性にはラモセトロン塩酸塩として2.5μgを1日1回経口投与する。なお、効果不十分の場合 には増量することができるが、1日最高投与量は5μgまでとする。
今回の事例は男女で用量に差のあるイリボーです。
添付文書にしっかり記載されているため既知の方も多いとは思いますが、そもそもなぜ男女に差があるのでしょうか。
事例のポイントには添付文書やインタビューフォームなどから薬剤の特性を理解し、処方箋監査を行うことが重要である。とあります。
それではインタビューフォームの開発の経緯を見てみましょう。
開発の経緯
イリボーは選択的セロトニン5HT-3受容体拮抗薬で2008年7月に「男性における下痢型過敏症腸症候群」を適応として国内で承認されました。
飲水は下痢型IBSの症状発症の景気、症状悪化の原因となる可能性があることから2013年8月にはOD錠の承認を取得されています。
しかし製造販売承認申請時に行われた第Ⅲ相試験では女性においてイリボー5μgはプラセボに比べて全般改善効果の統計的有意差が認められず有害事象の発現割合が男性と比べて高い傾向が認められました。
また性差試験ではイリボー錠5μg単会投与時における女性のCmax及びAUCは男性のそれぞれ約1.5倍及び約1.7倍と高い値を示したことから、製造販売承認申請時には男性のみに承認されました。
そこで女性の下痢型IBSに対する効能・効果の追加を目的に推奨用量として選択された2.5μgとプラセボを比較し試験した結果、有効性、安全性が確認され、既に承認されている「男性」と合わせ、「下痢型過敏性腸症候群」を効能・効果として、2015年5月に承認されました。
面白い開発の経緯ですね。
女性では改善効果の有意差が認められず、男性に比べ有害事象の割合が高いため、用量を低く設定して7年遅れで女性にも適応された薬です。
有害事象の差は添付文書の記載にもありますね。
用量が異なりますがそれでも女性のほうが有害事象発現率が高いです。
なぜ性差があるのか
そもそもなぜ性差があるのでしょうか。
原因は明確にはなっていませんが、推測は立てられていました。
CYP1A2の基質であるcaffeine、paracetamol及びnicotineについては、その曝露量が女性で高値を示すことが報告され(Clin Pharmacokinet 42: 107-121, 2003; Drugs 50: 222-239, 1995)、本薬と同様にCYP1A2が代謝に関与している類薬ALO及びオンダンセトロンにおいても、薬物動態に性差が認められている(Br J Clin
Pharmacol 53: 238-242,
2002; Clin Pharmacol Ther 51: 51-55, 1992)。以上から、本薬で認められている薬物動態に性差が認められた理由は代謝過程、特に薬物代謝酵素CYP1A2の影響が大きく関与しているものと考えられる。
機構は、以下のように考える。本薬の試験成績や類薬の報告等を勘案すると、本薬の薬物動態に性差が認められた原因としてCYP1A2の影響が寄与していると推測できるものの、現時点でその原因は明確になっていないと考える
審査報告書(2008年07月16日)より
吸収排泄は良好だから代謝が怪しい。代謝だったらCYP1A2じゃないか。という感じですね。
あくまで推測なので試験などには出ないでしょう。
中止の目安は
初回の服薬指導では副作用対策は欠かせませんね。
便秘、硬便は判断が難しいですが、メーカーさんが患者向けパンフレットを作成してくれています。
具体的な日数が記載されているのは判断しやすくてありがたいですね。
あくまでメーカーさんが作成しているものなので、医師からの個別指導があるかは確認しましょう。
過去問は
過去問は98、100、102、105回に出題されていますね。
どれもシンプルに機序を問われています。
2、4、5で悩みますがメペンゾラートも抗コリンなので2、5でいいでしょう。
開発の経緯にあるように下痢型IBSが飲水によって悪化することがある、と知っていると選択肢にOD錠があるのは実践的に見えますね。
最後に
用量に性差がある薬は少ないですね。
開発の経緯を知り背景を知ることで、いざという時のブレーキになるのではないでしょうか。
監査の一助になれば幸いです。
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